『セイレーンの懺悔』を読んだ感想

読み物
スポンサーリンク

中山七里
小学館


女子高生誘拐事件を通して、帝都テレビ報道記者新卒2年目の朝倉多香美が成長していく物語。

不祥事が続いていた番組「アフタヌーンJAPAN」を担当する多香美は先輩記者、里山太一とスクープのため、女子高生誘拐事件の真相に迫る。

警察の後を追い、着いた廃工場で目撃したのは女子高生の最後にふさわしくない顔が焼け爛れた痛ましい姿だった。

被害者の姿が多香美は自分の過去に起きた出来事と重なり真相を突き止めたいという思いが強くなる。その結果、見事スクープを手に入れるのだが後にそれが大きな悲劇をもたらす。

マスコミが持っている力は、時に人の人生を狂わせるほどに巨きい。視聴者が求めているものは報道の真実なのか、それとも悲しみを娯楽に変えたバラエティなのか。マスコミの正義とは一体…。

日常から切り離せないほどSNSが密接になっている時代に決して他人事ではない結末になっている。


多角的に問題提起がされている小説で、犯人が捕まって「はい終わり」ではなく、なぜその事件が起きてしまったのか事件の報道後まで一歩踏み込んだリアルな一面が描かれている。

また、この小説は新米記者多香美の成長物語でもある。

多香美が報道についての役割に悩んだ時、里谷は、「どんな商売でもそうだろうが、その道に進もうとしたきっかけや動機に立ち戻ってみる。駆け出しの頃だから業界の常識に洗脳されてもいない。会社の社是も知らない。自分がいったい何のためにテレビの仕事をするのか、自分はこの世界で何を実現したかったのか、頭にあるのはそのことだけだったはずだ。それを思い出すだけで、案外霧は晴れていく」と話す。

多香美が思いっきり迷ったり、ぶつかったりできるのはどんな時も先導し、時に優しく見守ってくれている里谷の存在があるからだろう。

多香美を見ながら新卒だった時の自分もそうだったなと懐かしく思い、同時に無鉄砲に突き進むことが許されない年齢になっていることに切なさを覚える。出てくる登場人物が自分の立場に対して真っ直ぐ且つ思いやりがあり、推理小説だけれど温かみのある1冊でした。

タイトルとURLをコピーしました