『大人は泣かないと思っていた』を読んだ感想

読み物
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寺地はるな
集英社


農協に勤める32歳の翼は、酒飲みでいつも不機嫌な父親と2人暮らしをしている。
母親は10年前に家を出て行き、その後父親と離婚した。

3代前から住んでいないと「よそ者」と認定されてしまう九州の小さな田舎街。自分の生活に飽きた人々は村のしきたりから外れた者の噂が娯楽になっている。母親はそんな街が窮屈だったのかもしれない。

こうでないといけない定型から少し外れてしまった大人たちの葛藤とそれでも自分の足で歩いていく姿が父親や母親、同僚、親友の目線から描かれ、7編の短編小説で成り立っている。


物語の中に派手な登場人物は出てこない。クラスで言えば大人しくて目立ちにくい存在にはいるだろう。彼らは、自分の意見を強く主張することがないだけで何も思っていないわけではない。

父親は看病をしてくれている翼に、「親の面倒を見るために生まれてきたわけじゃないだろう」と自分の人生を歩んでほしいという思いも込めて発する言葉は実にインパクトがある。

大事な人がいても、「みんな誰かのために生まれてくるわけじゃない」と思う。自分の人生だから、この人と過ごす、生きる、そう自らが選択をして歩んでいく。
だから選んだ後の人生もその人との関わり方を考え続けなければいけない。

ひとがひとりいるということは、物語がひとつあるということ。子から見た親、親から見た子、わたしから見る友人、あの人から見える友人の姿は違う。
それぞれ立場や感情があるから心に寄り添い想像し、協力して生きていけたら一緒にいる時間がきっと豊かになるはず。

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